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東京地方裁判所八王子支部 昭和39年(ワ)73号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一 被告が訴外桜井益富に対し本件建物(借地権つき)の売却および代金受領一切を委任していたことは当事者間に争いがないところ<証拠>を綜合すれば次の事実が認められる。桜井は、買主の物色を不動産業者大野隆夫に依頼し、大野は容易に買手が見つからぬところから、知人の原告に買い受け方を頼み込み、渋る原告の承諾を得た。原告は買い受けて他に転売する目的で、大野を売主の代理人として売買契約を締結し二〇万円の借地権名義書替え料を含め代金を二六〇万円と定め、内金一五〇万円を支払つた。このとき桜井は、実質上被告の代理人、契約締結上は立会人という立場を執り、原告との契約締結を大野に一任した。桜井は買主の物色、見つかつた買主との交渉、契約締結の一切を委せられていたので、契約締結が右のような代理関係で行なわれることは売主の意思に反するところはなかつたのである。<証拠>中、右認定に反する部分は措信できない。他に以上の認定を左右すべき証拠はない。かかる場合、売主本人が直接大野に代理権を授与していないからといつて、その契約を無効というべきではない。

二 本件建物所有権に基く原告の本訴請求にあつては、要は所有権が被告から原告に移転したか否かにある。上叙の売買契約成立の事実だけから未だこの点を認定の限りではない。

1 <証拠>によれば、売買契約成立の日に原告から被告宛て「印鑑証明、権利証、白紙委任状を預るが、売買代金残額完済までは登記をしない」旨の預り証兼誓約書が差し入れられ、桜井から原告に右登記用書類が交付されていることが認められ、売買契約成立のときには未だ所有権は買主原告に移転しないが、しかし売買代金完済のときに移転し、爾後原告の自由に登記手続ができる約旨と認められるのである。

2 昭和三六年一二月八日原告のために同日売買予約を原因として所有権移転請求権保全の仮登記がなされていることは当事者間に争いがない。原被告間に成立したのは単なる売買予約であつて売買ではないということは前認定を全面的に覆えすことであつて問題にならないが、右仮登記の事実によると、少くとも同日において本件建物所有権はなお被告に留保され、原告に移転していないからこその仮登記であると見られないではない。

そこで、1に認定の所有権移転の時点を決する売買代金完済と右仮登記との関係をみるに、<証拠>を綜合すれば、原告は、昭和三六年一一月一五日中間金五〇万円を売買契約締結上の被告代理人大野を通じて桜井に支払い、残六〇万円のうち二〇万円の借地権名義書替え料については、原告と大野、桜井両名との間に将来原告が本件建物を他に転売するときまで支払いを留保するよう合意が成立したので、残り四〇万円の支払いをもつて一応売買代金完済を意味づけて同年一二月八日大野、桜井両名の同席の場で原告から四〇万円が支払われたことが認められる。証人桜井はその証言中において右四〇万円の受領を否定するが、証人大野の証言および原告本人尋問の結果に照らすと、桜井と大野間に話し合いのある他の目的によつて使用されたことが窺われるが、桜井が大野を通じて一旦受領したことに変わりはないものと認められるのである。そして桜井が被告から売買代金受領権限をも授与せられていることは冒頭認定のとおりであるから、以上の代金はすべて被告において受領したものと認めなければならない。

以上の認定事実からすれば、所有権移転の時点を決する上での売買代金完済は昭和三六年一二月八日に一応完了したものというべきである。証人大野隆夫はその証言中において、所有権移転登記手続をとらないで仮登記手続をとつたのは、原告が本件建物はいやだといい出したからである旨供述するが、所有権取得の意思のない者が四〇万円を支払つて代金完済に踏み切つたことを認めるのは条理に反するから、にわかに措信できない。右証言を原告本人尋問の結果に綜合すれば、原告が一時嫌気がさしたとしても、大野の言をきき桜井の態度や出方(桜井は大野に対し、本件建物売買につき原告との交渉の始まる前に他との交渉において中途解約による手金没取の手口を示したことがある)など考慮の上、所有権取得に踏み切つて代金を完済し、登記手続を大野に一任したことが認められるのである。

登記手続を一任された大野が所有権移転登記をしないで停登記をした事情は次のように認められる。すなわち、<証拠>を綜合すれば、大野は桜井から、本件建物を売却した代金で被告の母横山久子が経営する小料理屋の建物を買うのだと話され、両建物売買の件をともに頼まれ、現に東京都中野区内の建物の買取りに手を染めていたが、うまく行かない状態にあつた関係上、本件建物を失うのみの結果となるのを恐れた桜井は、責任を感じている大野と相談し、登記簿上は仮登記にしておくことにしたものと認められるのである。

3 以上の次第で、仮登記がなされているのは、本件建物所有権が被告に留保されたからではないのであつて、所有権は1の約旨に従い前認定の時点において既に原告に移転したものと認めるのが相当である。

三 そうであつてみれば、原告は売買に因る本件建物の所有権取得者として、その登記義務者たる被告に対し、その登記を実体的権利所在に合致せしめるよう協力を求める権利がある。双方の合意によつて一旦真実に反した仮登記が登記簿上に作出された場合においても、その例外ではなく、双方は本件仮登記に基く所有権移転の本登記をすることによつて右の目的を達することができる。本来ならば仮登記の登記原因が昭和三六年一二月八日の売買予約であるときは本登記の登記原因は同日以後の特定の売買日でなければならぬが、本件にあつては、仮登記そのものが虚構のもので(売買成立後の売買予約を登記原因とするもの)、その本登記は判決をもつてその登記原因とすることによつてなさるべきである。よつて原告の請求はこれを認容することができる。(立岡安正)

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